授業が終わって速攻練習室の確保!と職員室へ行ったら、運悪く…いや、運良く?いつもお菓子をくれる美術の先生に声をかけられた。



「うぅ〜…前が見えない〜」

重くはないけどかさばる大きな箱2つ。
それを美術室に持っていって欲しいと言われ、その代償は既にスカートのポケットに入っている。


コンビニで出たばかりの夏季限定クッキー、夏みかんジャム入り


さすがいつもお菓子をくれるだけある。
見事、あたしの好みジャストミートだ。

「重くない…重くない、けど…」

前が見えないから、どうしても注意深くゆっくり歩く事になる。
周囲から見たら、間抜けな歩き方かもしれない。

…が、運がいいのか悪いのか。

この時間、この辺りはあんまり人気がない。
間抜けな姿を見られない反面、手助けも期待出来ない。

「う〜…」

転ばないよう、ぶつからないよう注意しながら歩いていると、不意に視界が開けた。

「危なっかしいと思ったら、お前さんか」

「金やん!!」

視界を塞いでいた大きな箱をひとつ持ってくれたのは、金やんだった。

「前から見たら箱が歩いてるのかと思ったぞ」

「ちゃんと足見えてたでしょ!?」

「だから、箱が歩いてると思ったんだって」

笑いながら頭をぽんぽんと叩かれて、頬を膨らませる。

「こんなに一生懸命なのに!」

「んじゃ、そんな一生懸命なお前さんに仕事、だ」

仕事…と聞いて、自然と眉間に皺が寄る。
金やんのことは大好きだけど、金やんの口からでる「仕事」にあまりいいことはない。

「これは俺が運んどいてやるから、お前さんは一足先に音楽準備室に行ってろ」

「………」

不審な目を向ければ、口元をニヤリと緩ませた金やんは危なっかしく歩いていたあたしとは違って軽々箱を持って歩き出した。

「あ、あたし練習室の予約入れてあるのに!!」

「安心しろ〜教師の特権で、それはキャンセルしといてやった」

「えー!?なにそれ!?」

「お前さんじゃないと、どうにも片付かん問題が発生したんでな」

「片付かない問題?」

話を聞くため、歩き出していた金やんの後を追うと、足を止めて突然励まされた。

「…ま、頑張れ」

「は?」

頑張れ、の意味が分からなくて首を傾げると、金やんが顔を近づけて耳元にぽそりと囁いた。

「………」

「ホント!?」

「あぁ…だが、お前さんに余力があれば…だけどな」

「あるあるあるっ!!

「じゃ、頼んだぜ」

「頼まれた!!」

元気良く金やんに応えて、足取りも軽く音楽準備室へ行ったんだけど…ドアを開けた瞬間、その元気が口からため息と共に零れていくのに気付いた。

「頑張れ、余力があれば…って、こーいうことか」

目の前に広がっているのは、まるで竜巻でも通ったかのように散らばっている楽譜や楽典の山。
これを片付けるとなると…余力が云々なんて、考えられないかもしれない。

「で、でも…頑張るっ!!」

だって、頑張れば…先生が、ご褒美をくれるんだもん!


――― 特別に、練習…見てやるよ










「よっと…」

「あら、金澤先生?」

「あぁ、この荷物はここでいいですか?」

「まぁまぁ、すみません。さんにお願いしたんですけど、彼女は…」

「すみません、彼女には音楽準備室の片付けに回って貰いまして…」

「まぁ、それじゃあ仕方ありませんね。今じゃあそこに一番詳しいのは彼女でしょうから…」

「はぁ…」

「でもこちらまで足を運ばせてしまって、逆に金澤先生には申し訳なかったですね」

「…いえ、私もこちらへ来る用がありましたから」

軽く会釈をして美術室の扉を閉め、音楽準備室へ戻るため足早にその場を立ち去る。

「……用事なんかねぇっつーの」

誰もいないことを確認してからぼやくように呟く。
そもそも好んで他の教員の所へ足を運ぶなんざ、まっぴらごめんだ。
職員室からでかい箱を抱えてでていくの姿に気付かなきゃ、恐らくここには来なかっただろう。

「…別に急ぎって訳じゃなかったんだがな」

音楽準備室の片付けが必要なのは事実だが、別に今日じゃなくても構わなかった。
明日にでも声をかけようと思っていたが…なにか理由でもつけないと、荷物を代わりに運ぶ…なんざ出来んだろう。

「ったく、いい年して何やってんだか」

がしがしと頭をかきながら、あいつの待つ音楽準備室の扉へ手をかける。

「…明日にでも練習、見てやるとするか」



それはお前への褒美でもあるが…
俺への褒美、でもあるんだからな





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大好きです!!(きっぱり)
…え?コメントにも何にもなってないって?(笑)
ですよねぇ〜…だけども、こんな金やんがデフォルトで好きなんですって。
さり気なく手伝ってくれるんだけども、理由は後付というかなんというか。
…大人って、いいよねぇ(しみじみ)
自分もそんな大人になれるといいのですが、目に見えて、明らかに、オープンに手伝った上、褒めて褒めて♪と尻尾を振るような大人になっちまいました(苦笑)
生まれ変わることが出来るなら、カッコイイ大人になってみたいと思います。
…また見事に関係ないコメントになったな。